熱力学におけるルジャンドル変換

ルジャンドル変換を熱力学に適用する。出発点はエネルギー表示の基本関係式Uである。エネルギーの自然な変数はS, V, Nであったが、このうちSVをそれぞれT-pに変数変換を行うためにルジャンドル変換が用いられる。変数変換のバリエーションはすでに示したとおり、(S, V, N)を元にすると、(T, V, N)(S, p, N)(T, p, N)の三種類が存在する。変数変換の結果得られた熱力学関数は、それぞれヘルムホルツの自由エネルギー(またはヘルムホルツエネルギー)、エンタルピー、ギブズの自由エネルギー(またはギブズエネルギー)と呼ばれている。すでに一般的な式展開を詳細に追っているので、ここでは結果だけを表にまとめて掲載する。

表4. 熱力学におけるルジャンドル変換の対応表

内部エネルギー ヘルムホルツエネルギー エンタルピー ギブズエネルギー
変数 (S, V, N) (T, V, N) (S, p, N) (T, p, N)
関数形 U(S, V, N) F(T, V, N) H(S, p, N) G(T, p, N)
変数変換 - S\rightarrow T V \rightarrow -p S \rightarrow T
V \rightarrow -p
変換式 - F=U-TS H=U+pV G=U-TS+pV
全微分 dU=
TdS-pdV+\mu{dN}
dF=
-SdT-pdV+\mu{dN}
dH=
TdS+Vdp+\mu{dN}
dG=
-SdT+Vdp+\mu{dN}
拘束式 T=\frac{\partial{U}}{\partial{S}}
-p=\frac{\partial{U}}{\partial{V}}
\mu=\frac{\partial{U}}{\partial{N}}
-S=\frac{\partial{F}}{\partial{T}}
-p=\frac{\partial{F}}{\partial{V}}
\mu=\frac{\partial{F}}{\partial{N}}
T=\frac{\partial{H}}{\partial{S}}
V=\frac{\partial{H}}{\partial{V}}
\mu=\frac{\partial{H}}{\partial{N}}
-S=\frac{\partial{G}}{\partial{T}}
V=\frac{\partial{G}}{\partial{p}}
\mu=\frac{\partial{G}}{\partial{N}}

なお、粒子数Nを化学ポテンシャル\muに変数変換することでグランドポテンシャルgrand potentialなる熱力学関数を導出できるのだが、あまり相挙動の議論に登場しないのでここでは省略する。グランドポテンシャルもエネルギー表示の基本関係式をルジャンドル変換することにより求めるので当然完全な熱力学関数である。既出の内部エネルギー、ヘルムホルツエネルギー、エンタルピー、ギブズエネルギーに加えて、このグランドポテンシャルを含めた合計5種類が代表的な完全な熱力学関数であるとされている。

ここまでの議論が腑に落ちれば、ギブズエネルギーを使う動機が分かるはずだ。ギブズエネルギーはTpNの関数として表されているではないか。すべてが実測可能な状態量である。測定可能という意味ではヘルムホルツエネルギーも悪くない。相挙動を語るときにギブズエネルギーとヘルムホルツエネルギーが頻出するのはそういった背景がある。