相という言葉の定義

ある系がマクロに見て均一な状態にあれば、その系は単一の相phaseにあると言う。物理学で言うマクロとは、十分に多く(数え切れないくらい)の原子や分子を含む規模を指す。イメージするのはモルの世界である。1モルという量は理想気体であれば標準状態で22.4リットルを占めるありふれた量だが、その中に含まれる気体分子の数はアボガドロ数分、実に6.02×1023個(602垓個)にもなる。0.001モルでも6千京個の分子が含まれるので十分巨視的macroscopicであろう。そのような規模をマクロあるいは巨視的と言う。反意語はミクロまたは微視的microscopicであり、ごく少数の原子や分子を含む範囲に着目することである。せいぜい現実的に数えられる粒子の個数と思えばよいだろう。

ところで系をマクロに見たときに、異なる物性や組成を持つそれぞれ均質な状態同士が隣り合って安定していることがある。これが異なる相が共存するということであり、相を区別することの正体である。例えば水を適量とって物質の出入りがない容器の中で圧力を保ったまま沸騰させると、容器の中で2相共存状態になる。このときの相は液相として水が存在し、気相として水蒸気が存在する。それぞれの相を構成する成分は水(H2O)だけなのであるが、密度という物性が異なるふたつの均質な状態、つまり相が容器の中に存在していることになる。次に別の例として、油と水が分離しているような状態を考えれば、それぞれ組成は異なるが均質な状態が2個存在するので、見かけは液体のみだが相は2個と区別されるべきである。以上のような相の定義であれば、液体や固体の中に複数の相が生じることと整合的である。つまり、さまざまな物質を含む多成分系で生じる最大の相の数は必ずしも3個ではなく、もっと多くの相を生じる場合がある。ある系が取りうる最大の相の数はギブズの相律として示されているので後述する。