相律

ギブズ・デュエムの式は平衡状態における示強性変数の独立性を制限する式であると述べたが、それでは具体的に、独立に値を変えられる示強性変数の数はいくつなのだろうか? 独立に値をとり得る示強性変数の数を(熱力学的)自由度degrees of freedomと呼び、記号Fで表す。ここでは、その自由度を求める式を導出する。

今、C個の成分からなる系があったときに、エネルギー表示の示強性変数は全部でC + 2個存在する。数え上げると、T, p, \mu_1, \mu_2, \cdots, \mu_cですべてである。すなわち、最大でC + 2個の変数を動かせうる訳であるが、それらはギブズ・デュエムの式を満たすようにしか変化できないので、結局自由度は

(104)   \begin{equation*} \begin{split} F=(C+2)-1=C+1 \end{split} \end{equation*}

になることが分かる。異なる相が複数個存在する場合には、それぞれの相でギブズ・デュエムの式が満たされなければならないので、相の数をRとすると、自由度はさらに制限されることになる。

(105)   \begin{equation*} \begin{split} F=(C+2)-R \end{split} \end{equation*}

 

上の式を(ギブズの)相律phase ruleと言う。よくある議論だが、この式を簡単に応用してみよう。

まず、定義よりF\geq 0であるので、(105)式と組み合わせると次の関係を得ることができる。

(106)   \begin{equation*} \begin{split} C+2 \geq R \end{split} \end{equation*}

 

したがって、一度に共存できる相の数は最大でもC + 2個であることが分かる。例えば、水のみからなる系では、C = 1なのでRは3以下となる。よく知られているとおり、水には気体、液体、固体の三相が共存する三重点triple pointと呼ばれる状態が存在し、その温度・圧力は0.01℃(273.16 K)、 611.73 Paという常に固有の値を示す。これは相律の式においてC = 1R = 3のときに自由度Fが0になることから示唆されているとおりであり、純物質の三重点の温度、圧力、化学ポテンシャルはただ一通りに決まるのである。なお、自由度F = 0である系を不変系、F = 1である系を一変系などと呼ぶこともある。