標準状態の定義

物質の振る舞いを調べる際に規準となる温度圧力条件を標準状態standard conditionとして定めることがしばしばある。しかし、同じ標準状態と言ってもさまざまな定義があるのでその都度確認したほうが無難である。

高校の物理などでは標準状態は0℃,1 atmと教えられたかもしれないが、IUPAC(国際純正・応用科学連合)は1982年に圧力1 bar(= 100,000 Pa)を標準状態とすることを推奨している。温度の指定はなされておらず、1 barのことを標準状態圧力Standard State Pressure(SSP)と呼ばれている。この場合、対応する温度は通常25℃(= 298.15 K)が選ばれているようである。他にも科学全般の領域で断りなく以下の状態を標準状態と呼ぶことがあり注意が必要である。

  • 標準環境温度および標準環境圧力Standard Ambient Temperature and Pressure(SATP)

25℃,1 bar

  • 標準温度および標準圧力Standard Temperature and Pressure(STP)または基準状態Normal Condition

0℃,1 atm

ここで話を終えられれば幸せなのだが、そうはいかないのが石油業界である。例えば、JIS-K 2249(原油および石油製品の比重試験方法並びに比重・質量・容積換算表)では標準状態は1 atm, 15°Cを指定しており、石油資源開発の鉱場でガス油比を計測するとき標準状態は760 mmHg(=1 atm),60°F(≒15.6°C)を採用している。前者は、米国を除く世界で広く用いられており、後者は主に米国内および米国系企業によって用いられている。本ウェブサイトではデータの都合上、両者を同等のものとみなして特に変換すること無く使うが、より厳密には0.6°C分の温度補正をする必要がある。そのほかには、ロシアでは、25°C,760 mmHg(=1 atm)を標準状態とするなど、状況は極めて混乱している。

標準状態を用いて何か計算を始める場合は、どの標準状態を指すのか厳密に確認することをお勧めする。