スタンフォード留学

学業

  1. 学期
    3か月ごとに学期が新しくなるいわゆるクオーター制を導入している。秋学期から年度が始まり夏学期で終わる。秋学期と冬学期の間にある冬休みが最も長くクリスマス期間はほぼすべての大学事務がストップする。夏学期には必修科目等の開講はなく数学やコンピュータ工学等の基礎科目や英語などの補講科目のみが開講される。したがって夏学期は校内に留まらなくてもよい。インターンなどに費やす学生も多いが私の場合は研究と英語の補講で忙しく暮らしていたため、実質的な休みは年間通じて二週間程度であった。
  2. 授業
    米国の大学院では、博士課程か修士課程かに関わらず研究と授業の両面において高度な成果が求められる。研究の遂行は大学院生としての基本的な要求であるが、特筆すべきは授業の負担の大きさである。スタンフォード大学で私が所属した学科では授業取得に関して博士課程と修士課程の違いはなく、いずれも45単位が必要である。一科目履修すると3単位取得できるので、2年で15科目が目安である。いずれの授業も負担が大きく、大量の宿題が課される。科目によっては週に15時間以上宿題に費やすこともしばしばであった。したがって、負担の大きい授業を2科目同時に受講してしまうと、宿題のみで毎週30時間消費することになるなど、研究生活に重大な支障をきたすため、科目選びは非常に重要である。なお、成績の基準は厳しく中間テスト100点、期末テスト95点でA、同95点、80点でA-、同95点、70点でBといった状況である。いずれも宿題は90~95点平均である。
  3. 博士課程取得の仕組み
    修士課程と博士課程は連続的なものとして扱われているが、ここでは修士号をすでに保持している者が博士課程から入学した場合について記す。まず1年目は研究と講義受講を並行して進めることが要求される。研究については指導教官の監督のもとに各人に与えられた課題に取り組む。研究の成果は指導教官が逐次評価し、不足が認められれば学科長名義で警告を出すことになっている。講義受講については学科の推薦科目があるものの、指導教官と学生の間で必要な科目を議論し受講することになっている。1年間で24単位、科目数に換算すると8科目受講することが必要になる。1年目が終了すると、2年目の最初の学期(秋学期)に、博士課程資格審査試験の筆記試験を受験する。この試験は研究で十分な成果を上げ、学業成績優秀と判断されることで受験資格を得ることができる。具体的にはGPA*3.25以上を維持し、研究成果について教授会の許可を得ることが必要である。筆記試験に合格すると、研究発表形式の口述試験の受験資格を得ることができ、これを通常2年目の冬に受験することとなる。口述試験に合格すると博士候補生となり、博士論文の執筆資格を正式に得ることができる仕組みである。博士論文がほぼ完成すると、通常ディフェンスと呼ばれる最終口述試験を受けることができる。口述試験には指導教官のほかに、審査委員会が組織され、各方面から総合的に博士論文の正当性が審査される。この試験に合格すると、博士論文を学校に提出して正式に博士号が授与される。
    *GPAとは:各教科で得た成績を単位数で重みづけして数値化したものであり、Aが4.0、Bが3.0、Cが2.0、Dが1.0、Fが0.0となっている。当学科では博士課程の在籍に必要な成績はGPA3.25以上、修士課程の在籍に必要な成績はGPA3.0以上である。成績は宿題、中間および期末の各試験をもとに評価されることが多く、その他プロジェクトとよばれる通期課題やグループワークによる成果が評価される科目もある。
  4. 研究概要
    既存の油ガス田の減退が進む中、埋蔵量増大に対して直接的な効果が期待される増進油回収法の研究に取り組んだ。特に、特殊な相平衡(三相平衡)を汎用的に計算する研究に取り組み、最適な操業条件をコンピューターシミュレーションによって予測することが可能となった。これによって将来的な埋蔵量増大への取り組みに貢献することが期待されている。現存する貯留層シミュレータでは、そのような複雑な計算はある一定の条件で不安定であり、結果を得ることができないが、数理計画(最適化)と呼ばれる手法を用いることで問題が解決できる可能性が示唆されてきた。しかしそのようなシミュレーションは非常に高負荷であり、計算時間が非現実的になるという問題があった。今回取り組んだ研究では、安定して解を求めることができる性能に加えて、計算を高速で終了できるような方法を考案し当該技術の実用化を目指した。研究の方向性は熱力学的相平衡計算(相安定性解析を含む)の改良であり、非線型連立方程式を数値的に高速かつ必ず収束するように構築することが核であった。具体的には勾配法と多点探索法を組み合わせた手法であり、信頼領域法の改良に当たる。

現地情報

  1. 入国時審査
    ビザ関係書類(DS-2019もしくはI-20)と現地連絡先電話番号(受け入れ先企業や大学等)をしっかり持つこと。入国審査で英語ができなかったため別室に連れていかれ、現地連絡先を聞かれても分からなかったため、長時間拘束されたている人を見たことがある。また、会社派遣による長期留学で赴任する場合、FビザではなくJビザを申請した方がよい。JビザとFビザはほとんど同じ機能を持つが、次の二点でJビザが有利である。すなわち、社会保障番号発給の対象となること、配偶者の就労が認められていることである。Fビザのメリットは、卒業後に米国での就労につなげることができるという点だが、会社派遣の留学では関係ないためあえてFビザを申請する必要性は皆無である。
  2. 気候
    地中海性気候(夏季乾燥・冬季多雨)である。一年中なんとなく肌寒い場所である。気温の年較差が少なく過ごしやすいが、一日の中での気温の変化が激しい。夏でもダウンジャケットを必ず持ち歩いている。10℃くらいまで下がることもしばしば。年間通して軽井沢や清里といった高原の初秋のような気候。
  3. 服装
    カジュアルな服装でよい。私のお気に入りの服装はハーフパンツにアロハシャツもしくはTシャツを合わせて、朝夕の通学時にユニクロのウルトラライトダウンを羽織るというもので、一年間だいたいこの組み合わせで対応できる。予約が必要なレストランであっても、しばしば襟なしのTシャツに野球帽のような格好でも入場できる。結婚式などのフォーマルな場所ではスーツにネクタイ、ポケットチーフといった日本と同じような服装で問題ない。ただそのような場面でもカジュアルな服装で来る人はいる。
  4. 治安
    全米でもかなり良いほうだが、軽犯罪がたまに報告されてくる。性犯罪もまれに起こる。昨今問題になったスタンフォード大学レイプ事件は学部生の学生寮で発生している。
  5. 衛生
    非常に良い。ただし手洗いはペーパーが散乱していたり、詰まっていたり、水浸しだったりあまりよくない。
  6. 警察
    スタンフォードは簡易的ながら独立した町としての行政組織を有しており、警察組織もスタンフォード大学警察署が管轄している。校内をパトロールカーが巡回しており、交通規則の違反者などを厳しく取り締まっている。校外では各地域を管轄する警察組織が治安維持にあたっている。
  7. 自動車購入
    個人売買が主体だが、手間と決裁の煩雑性をさけるため、日産サンフランシスコの正規ディーラーで中古車を購入。セール中でかなり安く程度の良い車を買うことができた。サンフランシスコのダウンタウンやロサンゼルスのほうが安い傾向があるらしい。郊外は車社会なので値段が落ちにくいとのこと。(ディーラー談、真偽不明。)日本から持参したクレジットカードが使えた。購入資金の調達には会社のローンを利用した。ディーラーには保証や消費税込みで合計約200万円を支払った。帰任時には購入した自動車を9千ドルで後任の赴任者に譲った。
  8. 現地銀行開設
    自分のニーズにしたがって選ぶ。私はカリフォルニア最大の銀行であるウェルスファーゴに決済用口座がある。また、日系のユニオンバンクなども新規赴任者は使えると思う。私はHSBCという銀行と、香港にいたとき(2005年)から付き合いがあったため、条件の良い口座とクレジットカードを作ってくれた。クレジットカードは作れるのであれば作った方がよい。というのも米国ではほとんどの決裁がクレジットカードでなされる上に、クレジットカードを利用することでかなり高額のポイントをすぐにためることができるからである。すなわち、クレジットカードを利用しない人間が、頻繁に利用する人間にボーナスを支払っているのと同じである。社会保障番号が必要であるので、短期滞在者やFビザ保有者は対象外となる。
  9. 携帯電話
    携帯電話はいくつかの会社(Verizon、AT&T、Sprint、T-mobile等)選べるが、社会保障番号がなければ日本のような後払いのプランは契約できない。私の場合は社会保障番号を持っているが、安いためT-mobileのプリペイドプランに加入している(月30ドルでデータ通信も5GBまで可能)。家電量販店でSIMカードが購入でき、クレジットカードがあれば即使える。もし社会保障番号があれば、日本でおなじみの2年縛りの機種代分割プランなどを使うこともできる。また、AT&Tのファミリープランなるものが有名で、最大10人程度のグループをつくってシェアするとかなり安く使えるようである。韓国や中国のエスニックコミュニティではよく見られる。
  10. インターネット
    学校提供。スタンフォードのIDがあれば学内のWi-Fiを利用できる。非常に高速。校外8から学内のコンピュータにリモート接続する際はVPNを利用する。日本からも接続できるが、外部の回線を経由するため動作環境が悪化する。訪問者用のWi-Fiも利用できるが低速で接続制限あり。
  11. 郵便事情
    学内に郵便局がある。ポストも至る処に存在し、例えば寮にもポストが備え付けられている。一方、重要書類を送付するのに書留のようなものを使わないため、クレジットカードが他人のもとに届いてしまうようなこともある。私も自分の住所を間違えて記入して、銀行からの書類が届かなかったり、クレジットカードが届かなかったりすることがあった。電話をかけて再発行してもらう。切手は郵便局をはじめスーパー等でも購入できる。海外に絵葉書や封筒を送る切手はグローバル切手と呼ばれており料金は一律。10枚組のシート(bookと言ったり、sheetと言ったりする)が便利で、まとめ買いしておいて財布に入れておき、旅行先で絵葉書を購入したさいにそれを貼って実家や家内に便りを送っていた。なお、永久切手(forever stamps)なるものが一般的で、日本の郵便切手と異なり額面の記載はない。これは今後郵便料金が値上げになっても永久切手である限り追加の料金を払う必要がなく、必ず郵送することが可能であるというものである。国際郵便用の永久切手がほしい場合は国際永久切手(global forever stamps)が欲しいといえば出してくれる。
  12. 医療
    クリニック(Vaden Health Center)が学校にあり強制的に加入させられる学校の保険(Cardinal Care)でカバーされる。要予約。インターネットのポータルでスケジュールの確認と予約ができる。薬に関しては処方箋が出るのでクリニックに併設された窓口で別途購入するか、薬局やスーパーなどで処方してもらう。なお、旅行先や保険の適用期間外の場合は、会社が加入した海外旅行保険が利用できる。私は卒業式後に聴力異常を発症し、大学クリニックが利用できなくなってしまったことから、海外旅行保険の保険会社に病院を手配してもらった。24時間対応の保険会社のフロントデスクに連絡を入れると、病院の選定、予約、支払いの手配までをすべて対応してくれる。あとは自分で病院に出向いて診察を受けるのみ。私の場合はサンマテオ(車で30分程度の距離)にある日本人経営の日本ベイクリニックという病院で診察を受けた。内科医のようだが、一通りの設備があり、薬もその場で処方された。
  13. サマータイム
    あり。DSTと呼ばれる。いつ切り替わるか把握しておかないと朝起きてびっくりする。
  14. チップの習慣
    あり。小売店やファーストフードなどでは不要。乗り合いタクシーサービスのUber等で9も不要。
  15. 決済方法
    クレジットカードまたはデビットカードが圧倒的に好まれる。コンビニや売店で1ドル程度の精算でもクレジットカードが用いられる。また、飲食店を複数人で利用した際には、会計の際にクレジットカードを複数枚提示できることが多い。このような行為はスプリット(split)などと呼ばれており、割り勘の精算がその場で完了するため便利である。大きな額面の取引や郵送での金銭の授受には個人小切手(personal check)が用いられることもある。学部の合宿のようなイベントでは個人小切手による集金が主であった。決済用の口座を銀行に開設すると小切手帳が与えられるのでそれを用いる。また、友人間での少額の金銭の授受にはPayPalやVenmo、Cashなどといったサービスを利用した。
  16. 主な交通機関
    自動車が絶対的優位である。自家用車を持たない学生もレンタカーを利用したり、知人に貸してもらったりしたり、なんらかの手段で結局自動車に頼っている。学校内は自転車またはバスが使える。都市間の公共交通機関としてはパロアルト(Palo Alto)駅またはカリフォルニア通り(California Avenue)駅から中距離列車のカルトレインが利用できるが日中は一時間に一本程度で非常に不便。運よく特急列車(Baby Bullet)に乗ることができればサンフランシスコ駅まで30分程度で到達する。パロアルト駅が特急停車駅。また、自家用車が利用できない場合は乗り合いタクシーサービスUberが便利で安い。友人と乗り合ってしばしば利用した。カーナビは簡易的なものが主流だが、GoogleMapsのナビゲーション機能が非常に優秀で渋滞予測までできるため、スマートフォンが使えればカーナビを用意する必要は全くない。自宅からロサンゼルスまで5時間超のロングドライブでも予想到着時間の誤差が±5分程度と驚異的な精度を誇る。
  17. スーパーマーケット等
    Safeway、Nijiya Market(日系)、Wholefoods等を日常的に利用。SafewayとWholefoodsは3キロくらい、Nijiyaは10キロくらい離れている。最も近い売店は徒歩10分の場所にあるガソリンスタンドで、学内にはほかに日用雑貨を取り扱う店はほぼ皆無。24時間アクセス可能な自動販売機もない。日本のコンビニを恋い焦がれながら生きている。買い物には自動車が必須で、非常に不便。ウォルマートやCVSも一時期よく使っていたが、特にウォルマートは安かろう悪かろうなので使うのをやめた。組み立て式の家具などは激安だが、部品が足りなかったり、ゆがんでいたり、さびていたりでとても売り物とは思えない品質である。
  18. 物価
    かなり高い。体感的には日本に比べて2倍~3倍の物価である。きちんとした店(ファーストフードではない店)で外食すると昼食でも2千円以上することがしばしば。ファーストフードの中華弁当で10ドルとかふざけている。食材(肉・野菜・果物・菓子)をかなり控え目に一週間分購入しただけで5千円程度は優にかかる。また、健康的な飲料は非常に高いが清涼飲料水とビールは1缶50セントくらいの場合が多く非常に安い。水と牛乳で日々の渇きをいやしている。セーフウェイのクラブカードや、日系スーパーの特売日(毎月29日の肉の日など)をうまく使うとよい。
  19. 食生活
    大学のダイニングホール(学食)にてビュッフェ形式で毎食提供されているが、定額で一食千円ほどかかるため、時間的にある程度余裕がある時期は自炊が中心であった。中華料理や日本食を自分で作りおいて食べる。ダイニングホールにて無料で入手できるバナナ、リンゴ、オレンジなどといった果物がスナック兼非常食として機能したため、大量の果物をデスクに積んでいた。私はそのような行為をfruit smuggling(果物密輸)と呼んでいた。それ以外には、卵の利便性が極めて高いため常にストックしておき、オムライス、目玉焼き、スクランブルエッグ、煮卵、ゆで卵などを気分によって作り分けた。デザートや菓子の類も高いので、砂糖、卵、牛乳を切らさないようにして、プリンを日曜の夜に作って備えておくなどした。このように卵は食生活の中心であった。ファーストフード店もよく利用したが、清涼飲料水の類をあまり摂取しないように心掛けた。
  20. 嗜好品
    コーヒーブレイクが同僚間のコミュニケーションの中心であり、報告があるとき、行き詰ったとき、気分転換したいとき、ただ単に暇なときなどに仲間同士でコーヒー行こうぜ、と誘い合って飲みに行った。ペースとしては一日一回くらいであった。スターバックスがオフィスの近くにある。ホットのレギュラーコーヒーを注文することがほとんどで、夏はアイスコーヒーやまれにフラペチーノなどの甘いものも頼んだ。学生は軽度の睡眠障害を抱えていることが多く、午後3時以降のコーヒーブレイクではホットチョコレート(ココア)を楽しむことも多かった。スタンフォードではタバコはあまり一般的ではないが、屋外に灰皿があり、講師や大学院生を中心にまれに喫煙している人がいる。麻薬の類はご法度で一度も乱用している場面に遭遇したことはないが、学生の中には過度のストレスから興味を示すものもいた。
  21. 日本食レストラン
    多数あるが、日本人の評価に耐えうる場所は5キロ圏内で二件のみ。うち一件は非常に高い(昼食で30ドルはくだらない)。パロアルトにあるスティーブジョブズお気に入りの寿司屋なる店にも入ったことがあるが、はっきり言って日本人の口に合うものではなく、二度と行かない。シリコンバレーは高給か高度な教育を手に入れるための場所であり、基本的にうまいものはない上に高い。
  22. 読書・映画鑑賞
    日本語の書籍を求める場合、サンタクララにあるMitsuwa Marketに紀伊国屋書店が併設されており文庫本から学参まで広く購入できる。サンフランシスコのジャパンタウンにも支店がある。取り寄せもできる模様。しかし値段が尋常ではなく高いため、私は電子書籍を読むか、英語の書籍を読んでいる。アメリカは日本と異なり、本が安売りされていることがよくあり、書店のセールやアマゾンをうまく使うとよい。またスタンフォードの図書館は非常に充実しており、配偶者でも入ることができるため家族帯同の場合は図書館で時間を過ごすのもよい。DVDやゲームソフトの貸し出しもあり、ハリウッド映画からテレビドラマまで幅広い品ぞろえ。無料。映画館は大型のものがショッピングセンター内に併設されており、高いが非常に高品質。サンタクララのAMCにしばしば行ったが、私個人的にはレッドウッドシティにある映画館がお気に入り。
  23. ショッピング
    小売店の質が高くないため、必然的にアマゾンにかなりお世話になることになる。アマゾンプライムは入るとかなり満足感が得られた(速達サービスやセール品、ビデオストリーミングなどが提供される)。
  24. スポーツ
    最も重要かつほぼ唯一の娯楽である。学内では多くのスポーツを無料で楽しむことができる。ジムのほか、プール、テニス、ボルダリング、エアロビクスなどのアクティビティが無料である。私は週4日ほど水泳に通い、時折友人とテニス、春学期にゴルフのレッスンを受けるなどした。スタンフォードは過度にストレスフルな環境であり、精神力、学力、体力のいずれが不足しても致命的である。したがって、スポーツを通じた基礎体力作りは欠かせない。また、学生の多くが甲状腺機能亢進症のような精神性のホルモン障害や軽度のうつ状態を患っており、適度の運動による疲労感が睡眠を促進することから毎日体を動かす人間も多い。食事もたんぱく質中心であり、運動によって強固な体幹を作ることができる。つまり、好きでジムに通ったりスポーツをしたりするというよりも、それ以外に娯楽がない、運動しないと眠れない、継続することによる体力向上の満足感が高いなどの要因がある。また、駐米中は3回ほどタホ湖にスキーに出かけた。タホ湖の自然は素晴らしく、私の人生で最も美しい思い出のひとつになった。
  25. スポーツ観戦
    スポーツはキャンパスフットボールが人気であるが、私は野球観戦が好きなためシーズン中は時折MLBの中継を観戦していたほか、3回ほど現地に出かけた。サンフランシスコをジャイアンツが本拠地としているほか、オークランドにもアスレチックスの球場がある。
  26. テレビ
    学校が提供する無料・有料のケーブルテレビが利用できる。無料のものはまったく使えない。大学の授業をダイジェストで流す番組やNASAの科学番組、それとNHK教育のような現地の放送局くらいしか映らないからである。有料のケーブルテレビは月60ドルと激高だが、100チャンネルくらい映り、日本語チャンネルもある。私はCNN、ブルームバーグ、TV Japan、NBC、映画チャンネルなどをよく見ていた。CNNは大統領の一般教書演説やGOP(共和党)のディベートなどを見るとアメリカを感じられてよい。TV JapanはNHKの再放送がほとんどだが、まれに中継がある。朝ドラや相棒などの連続ドラマも放映されている。
  27. ラジオ
    自家用車が主要な交通手段であるため、ラジオは日常的に聴取していた。私はポップ音楽専門のKOIT(96.5 MHz)、広東語放送の星島電台(1400 kHz)をよく聞いていたが、ロサンゼルスのジャズ専門放送KJazz(88.1 MHz)も好きで、しばしばインターネット経由で楽しんだ。特にKOITはなじみが深く、ほかの場所からベイエリアに帰ってくるときにKOITが入ると何とも言えずに嬉しかった。ちなみに感謝祭が終わるとKOITは年末までクリスマス音楽しか流さなくなり痛快である。
  28. 冠婚葬祭
    葬儀には参加したことはないが、友人の結婚式には招かれた。服装は日本人が日常的に着ているスーツの上下に華やかなネクタイ、ポケットチーフといった格好で十分である。女性についてはドレスやワンピースが多かったが、白い服はタブーのような習慣は存在しないのではないかと思う。ご祝儀は100ドル程度をピン札で包む。封筒などに記名して当日渡す。折り目のないきれいな小切手を包んでもよい。私の場合は100ドル分の個人小切手を、日本の祝儀袋に包んで漢字でサインして渡したところとても好評であった。祝儀袋は前出の紀伊國屋書店で購入。
  29. 観光地等
    ベイエリア近郊では、サンフランシスコ、オークランド、ハーフムーンベイ、サンタクルーズ、サラトガ、ギルロイなどの観光地に来客があった時などにしばしば訪れた。州内ではスキー場で有名なタホ湖、ワインで有名なナパバレー、ヨセミテ国立公園、セントラルコースト、サンタバーバラ、ロサンゼルス、サンディエゴなどまで足を伸ばした。特にタホ湖、セントラルコースト、ハーフムーンベイは素晴らしくそれぞれ複数回訪れている。いずれも自動車でのアクセスである。
  30. その他娯楽等
    カリフォルニア州は基本的にギャンブルが禁止であり、公営ギャンブルも存在しないが、インディアンカジノがわずかに存在する。隣のネバダ州にはカジノが無数に存在し、有名なラスベガスはもちろんのこと、ネバダ州第二の都市リノや、スキーリゾートとして有名なタホ湖に大型カジノが複数建っている。人気のギャンブルはブラックジャック、ポーカー、ルーレット、そしてクラップスと呼ばれるものである。クラップスはゲームの特性上、客同士の一体感が生まれやすく、現地人に混ざって盛り上がることができる。一般的にアメリカではカジノに対してネガティブなイメージはなく、ディーラーや他のプレーヤーとの社交の場であり健全な娯楽であると認識されている。スマートに楽しむことができるとかっこいい。
  31. 現地文化・風習で留意すべきこと
    街ではヒスパニックの労働者が多く、スペイン語なまりの英語に多く触れることになろう。基本的に街の人たちはフレンドリーなので自分も笑顔を絶やさずにいると過ごしやすい。在米中は自分もアメリカ社会の重要な一員であることを意識して行動するとよい。米国は移民の国で国籍という意識が希薄なので、アメリカで生活し英語を話す以上(アジア系)アメリカ人として見られる。むしろ国籍と言うよりどのエスニックグループに属するかがアイデンティティの拠り所であり、日本人の場合は、アジア系という大きな枠の中での日本文化の人、という感じ。つまり自分の出自は大切にしつつも、アメリカ社会に貢献できるのがよいアメリカ人である。大学はかなりストレスフルなコミュニティなので自信をいかに失うことなく楽しめるかが鍵。世界一流の頭脳と才能を持つ若者たちの多くが何らかの精神的な問題を抱えているようで、外見の華やかさの裏で多くの絶望が渦巻く。その裏付けに、セラピー、瞑想、スポーツなどがさかんである。学部生は成績の向上と就職にむけたコネクションづくりを重視している者が多く、大学院生とは違った意味で多様性に乏しい。