2016年読書の話
2016年に読んだ本の感想。
☆☆☆:未読または読み途中
★☆☆:うーん。
★★☆:ふつう。
★★★:満足。
★★☆ 二つの祖国, 山崎豊子
- 戦前のロサンゼルスに慎ましくも幸せに暮らしていた日系二世とその家族が、交戦国となった日本とアメリカという二つの祖国の間で翻弄され傷ついてゆくさまを描いた群像劇。特に終戦後に米軍の士官として主人公が従事することになる東京裁判の章は、著者独特の執拗な観察眼をもって精密に描かれており歴史考証の資料としても価値があるのではないかと思う。残念なのは主人公の性格が極端であまり現実感がないこと。
★★★ 沈まぬ太陽, 山崎豊子
- 日本航空(劇中では国民航空と社名を変えている)を舞台にした長編小説。若くして組合委員長として担ぎ上げられ、その後一貫して会社の不公平や不正を正すために必死に食らいつく主人公の恩地と、同期入社で出世街道を邁進する行天の終わらない戦いを描く。日本航空黎明期の組合活動、70年代の国際線を取り巻く状況、御巣鷹山の墜落事故、海外資産や子会社を利用した乱脈経営等の複数の話題が主人公二人を軸に展開し、日航崩壊の予感へと収斂して行くさまが実に見事に描かれている。信念を貫くものの最後まで会社に裏切られ続ける恩地と、体制側にすべてを捧げその過程で有形無形の利益を享受するも最後にすべてを失う行天。どちらを選んでも絶望、さあ選べ、と言われたようで衝撃だったが、ある意味サラリーマンの黙示録的小説ではないかと思う。
★★★ Short stay in the hell, Steven L. Peck
- 進化生物学の教授が書いた短めの小説。死んだ主人公が落とされた地獄は、予想だにしていなかったような場所であった。地獄とは文字がランダムに散りばめられた無数の本を収蔵する無機質な図書館であり、そこから自分の人生が書いてある本を見つけることができれば、魂が救われて天国に行けるのだという。文字をランダムに配置すると、ときおり意味のある単語が並ぶことがあるが、これで人生を語るとなると難しい。本は無限にあるので、数学的には図書館のどこかに必ず自分のストーリーが書かれている本が存在するはずだが…。地獄には衣食住が完備されていて、同じように落とされてきた人間と社会的な関係や恋愛関係さえも構築できる。しかし地獄の人々は結局そこではたった一人で本を探すしかないことに気づく。終わりの見えない単調な時間というのは、精神を最も蝕むものである。精神だけが取り残される地獄という場所がこの小説のような場所であれば神は真に残酷である。精神の時計の針が止まった時に人は地獄に落ちるのだ。
★★☆ Crippled America, Donald J. Trump
- トランプ次期合衆国大統領が大統領選に出馬した際に書いた本。メッセージがシンプルな文章で書かれており、多くのアメリカ人が彼を支持した理由が透けて見える。スタンフォードの本屋で3月くらいに購入したものだがクリントン氏に関する多くの書籍が並ぶ中で異彩を放っておりジャケ買いしたもの。
★★☆ Hong Kong Noir, Feng Chi-shun
- 現代香港で起きた実際の殺人事件や社会問題になった事件を中心に、著者自らが経験したエピソードも交えて都会に潜む闇を描いた短編集。基本ノンフィクションだが、描写が生々しすぎて(特にハローキティ殺人事件)気分が悪くなった。フラットな気持ちで読まないと後悔する模様。
★★★ Thing explainer, Randall Munroe
- ものの仕組みを専門用語を使わずに簡単な英単語だけで解説した絵本。説明が絶妙で納得したり笑ったり楽しい。子供にも大人にもオススメな一冊。