2015年(下)読書の話
2015年の下半期に読んだ本の感想。
☆☆☆:未読または読み途中
★☆☆:うーん。
★★☆:ふつう。
★★★:満足。
★★★ ローマから日本が見える, 塩野七生
- 古代ローマ帝国の話。ローマ建国から衰退期に至るまでの歴史をダイジェスト版で語った上で、現代日本社会の諸問題にいかに立ち向かうか考えさせてくれる構成になっている。純粋に語り口が軽妙で引き込まれる。ローマの英雄たちを数字で評価した「通信簿」も面白い。古代ローマの各指導者のパフォーマンスを、知力(現状把握力)、説得力(アウトプット能力)、肉体力、自己制御力、持久力の5要素に分けて採点する。全分野で100点を取ったのはカエサルとギリシアのペリクレスのみ。私の家内はスッラタイプ(敵に回したくない人)、上司はハンニバルタイプ(持久戦に強い人)、隣に座っている友人はスキピオタイプ(説得や扇動に長けている人)だった。
★★☆ Cosmos, Carl Sagan
- カール・セイガン作の宇宙や科学の話。ペーパバックを大学の本屋で購入。80年代にアメリカで放送された同名のドキュメンタリー番組がもとになっている。著者は天文学者だが筆が冴え、示唆に富んだ読ませる文を書く。非常に豊かな表現力で宇宙と科学の奥深さを捉えた名文だと思うが、2015年の現代となっては手垢がついてしまった話題も多く、涙を呑みつつ星一つ分だけ減点。当時読んでいたら文句なく星三つ以上をつけるべき内容だろう。
★★☆ 賭けの考え方, イアン・テイラー, マシュー・ヒルガー, フジタカシ (訳)
- 他の本と間違えて注文してしまい仕方なく読んだのだが、結構面白くて星二つ。ポーカーでいかにして勝つかを論じた本。いかなる賭け事も大数の法則からは逃れられず、結局負けも勝ちも期待値通りに収束してゆく。が、自分次第で期待値を下げてしまう要因がある。それは心理的な動揺に起因する種々の非合理的な行動である。怒りや恐れ、集中力不足によって自分の首を絞めてしまう。気持ちを安定させ自分のスタイルの賭け方(これは自分で探すしかない)を根気よく続ければおのずと勝ちが積み重なってくる。なんとこれは人生そのものではないか。
★★★ 工学基礎 最適化とその応用, 矢部博
- 数理計画法や最適化と呼ばれる分野の入門書。仕事上購入。非常に良い。「これ進○ゼミで出たところだ!」よろしく、この本のおかげで中間テスト95点取れました。
★★★ 新・水滸伝, 吉川英治
- 戦前の日本人向けに書き直された水滸伝。水滸伝は三国志と対照される中国の古典小説だが、私は三国志よりも好き。中国では「少不看水滸、老不看三國(若くして水滸伝を読まず、老いて三国志を読まず*)」と言うらしいが、むしろ水滸伝を思春期に読んでから青年期に三国志を読んで、多少アクのあるさばけた人格を形成をする方がいい気がする。三国志に比べると水滸伝の方は冒険活劇風でエンタメ寄りだが、含蓄ある言葉や鷹揚に人生に取り組む姿勢などが散りばめられており勉強になることも多い。特にこの吉川英治版水滸伝はセリフまわしが独特で楽しく読めてとてもオススメ。藩金蓮にまつわる艶っぽい話もいい。
★★☆ 中国怪奇小説集, 岡本綺堂
- 志怪小説と呼ばれる中国の古い怪談話を集めた短編集。日本の昔話や怪談の多くが中国に源流を求めていることに驚愕。捜神記がおもしろい。例えばろくろ首、のっぺらぼう(再度の怪)、羽衣伝説などのもとになった話が収録されている。再度の怪というのは、化け物に驚かされて必死で逃げてきた人が、別の人に「それはもしかして、こんな奴じゃなかったかい?」(お化けドーン)って追撃される系の怪談ね。たくさん亜種がある。十分名文だと思うが、そこらの短編小説よりも短い話が多く、岡本綺堂自身、備忘録的に書き留めたのではないかと思えることから星一つ分減点。パブリックドメインになっているので青空文庫で無料で読める。捜神記のリンクだけ置いておく。
★☆☆ 李嘉誠:我一生的理念, 李永寧
- 友人から譲り受けた本。アジア一の大富豪である企業家リ・カーシン(李嘉誠)の伝記。スタンフォードにもリ・カーシンセンターがある。一代で築き上げたCKハチソン(長江和記)という香港を代表するコングロマリットを率いている。東京駅八重洲口にそびえるパッシフィック・センチュリープレイスという超高層ビルは少し前までこの人の息子さんの持ち物だった。さて本書の評価だが、商売を成功させたければ誠意を尽くせ、というような東方管理学的な記述は割と説得力があり、なるほどと思うことも多い。しかし実在しない企業や裏付けの取れない人物の話がさも実話のように載っており、伝記としての信憑性には疑問符が付く。半分フィクションとして読めば面白いので星二つ、と思ったけど、やっぱり伝記でウソはダメでしょう。星一つ!
*水滸伝は反骨精神や忠義などが極端な形で表現されている(美化も正当化もしていないが、なんとなく惹きつけられる書き方をしている)ため、若者が読むと感化されてしまって危険、と言う意味。一方三国志は幾多の強者や賢者が権謀術数をめぐらすもはかなく散ってゆく物語であるため、年老いてから読むとずる賢く打算的になったり厭世的になったりしてしまい危険、ということらしい。