状態方程式の係数の計算

ここまでの計算で、与えられた条件における平衡状態が求められたのだが、その状態が熱力学的な平衡条件を満たしているか判断する必要がある。PTフラッシュ計算における平衡条件は、成分ごとにすべての相のフュガシティが等しいことであったので、ここからはフュガシティの計算を目指すことになる。

フュガシティは状態方程式を用いて計算することができ、気相、液相それぞれについて求める。多成分系の非理想流体を考えるのでファン・デル・ワールス型状態方程式を用いるが、ここでは代表的にペン・ロビンソン状態方程式によって議論を進めることにする。 さて、ペン・ロビンソン状態方程式には分子間力を補正する係数であるaと分子の大きさ自身を補正する係数bが存在するが、それぞれは次のように与えられておりすぐに計算することができる。ただし、液相と気相それぞれについてabを計算する必要があり、式の形が液相モル分率x_iを気相モル分率y_iについて若干異なるので注意されたい。

(77)   \begin{equation*} A=\frac{ap}{R^2 T^2} \end{equation*}

(78)   \begin{equation*} B=\frac{bp}{RT} \end{equation*}

(液相の場合)

(79)   \begin{equation*} a=\sum_i\sum_j x_i x_j (1-\theta_{i,j})\sqrt{a_i a_j} \end{equation*}

(80)   \begin{equation*} b=\sum_i x_i b_i \end{equation*}

(気相の場合)

(81)   \begin{equation*} a=\sum_i\sum_j y_i y_j (1-\theta_{i,j})\sqrt{a_i a_j} \end{equation*}

(82)   \begin{equation*} b=\sum_i y_i b_i \end{equation*}

ただし、

(83)   \begin{equation*} a_i=\frac{0.4572R^2 T_{ci}^2}{p_{ci}}\alpha(T_{ri}, \omega_i) \end{equation*}

(84)   \begin{equation*} \alpha(T_{ri}, \omega_i)=\left\{ 1+(0.37464+1.54226\omega_i - 0.26992\omega_i^2)(1-\sqrt{T_{ri}}) \right\}^2 \end{equation*}

(85)   \begin{equation*} b_i=\frac{0.0778R T_{ci}}{p_{ci}} \end{equation*}

なお、Rは気体定数、Tは温度、pは圧力、\theta_{i,j}は成分iと成分jの間の相互作用係数、T_cは臨界温度、p_cは臨界圧力、\omegaは偏心因子であり、添え字のiまたはjは成分を、rは還元値を表している。

これらの値のうち、相互作用係数、臨界物性値、偏心因子はEOSパラメータと呼ばれており、ありふれた純物質であれば理科年表などからその値を知ることができる。ところが、我々が扱おうとしている炭化水素のEOSパラメータは特殊であり、炭素数が多くなると同位体の数が莫大になり同じ炭素数のグループでまとめた平均的な値が必要になったり、臨界状態が高温になり過ぎて実験的に導出できなくなったりするので、種々の理論式や関係式から計算で求めることが多く、しばしば不確実性を含むことになる。そのようなときはPVT試験に合致するようにEOSパラメータを調整するようなマッチング操作が行なわれる。つまり、PVT試験を実施する最も大きな動機のひとつは、EOSパラメータを調整して不確実性を下げることである。よく調整されたEOSパラメータが得られれば、フラッシュ計算によって任意の条件での熱力学的な平衡状態を知ることができるという訳である。