エントロピー

エントロピーは熱力学の話における難所のひとつである。教科書的にはエントロピーは乱雑さの程度を示す指標であると教えられる。言葉どおりに捉えればそんなに難しい概念ではないし、日常会話でも大学生あたりが衒学的pedanticにエントロピー増大の法則という言葉を使ったりする。しかし今、平衡状態の定義を行ったので、別の視点からエントロピーを論じることにしたい。

結論から言えば、エントロピーentropyとは、任意の系のさまざまな平衡状態について、実数値が一意的に定まる量である。別の言い方をすると、ある平衡状態について必ず有限の実数値がひとつ存在する量がエントロピーである。記号はSで表される。

エントロピーを語る際によくあるのは、エントロピーは絶えず増大するという誤解である。エントロピー増大の法則という呼び方がよくないのか、系がどんどん乱雑になっていくとそれに伴ってエントロピーが無限に増えていくような印象を与えてしまうが全くの誤解である。エントロピーはある孤立した系のさまざまな平衡状態ついてそれぞれ一意的に決まる有限の量であり、いわば平衡状態を定義するIDナンバーのようなものである。逆に言えば系のエントロピーが最大となったときが平衡状態であり、孤立した系をそれ以上放置しても何も起こらないため、エントロピーの増大はそこで打ち止めである。なので無限のエントロピーなどナンセンスである。孤立していない、開いた系ならばエントロピーは無限大に大きくなるのではないかと考えるかもしれないが、そもそも平衡系の熱力学では孤立していない系は考察対象外なのでそのような系のエントロピーを議論しても意味はない。