理想気体の化学ポテンシャル

相平衡の条件で登場するパラメータのうち、温度と圧力は計測可能であるが、化学ポテンシャルは直接計測ができない量である。そこで、今まで登場した手持ちの情報から理想気体の化学ポテンシャルを計算することを試みる。実在気体の化学ポテンシャルについては後ほど求めるので、まずは第一歩である。出発点はルジャンドル変換によってギブズエネルギーを導出する過程で得られたギブズエネルギーについての全微分の式である。

(123)   \begin{equation*} \begin{split} dG=-SdT+Vdp+\mu{dN} \end{split} \end{equation*}

すでになされた議論のように、温度と粒子数が一定であると仮定すれば、dTdNがそれぞれ0になり、結局次の式が得られる。

(124)   \begin{equation*} \begin{split} dG=Vdp \end{split} \end{equation*}

ここで理想気体の状態方程式は

(125)   \begin{equation*} \begin{split} pV=nRT \end{split} \end{equation*}

であるので、これを(124)式に代入してVを消去すると次の式が得られる。

(126)   \begin{equation*} \begin{split} dG=nRT\frac{dp}{p} \end{split} \end{equation*}

ここで両辺を、ある基準となる圧力p_0から任意の圧力pまで積分すると、

(127)   \begin{equation*} \begin{split} \int^{p}_{p_0}dG=nRT\int^{p}_{p_0}\frac{1}{p}dp \end{split} \end{equation*}

となるので、これを計算すると結果は次のとおりとなる。

(128)   \begin{equation*} \begin{split} G(p)-G(p_0)=nRT\ln\left( \frac{p}{p_0} \right) \end{split} \end{equation*}

両辺をnで割ると、

(129)   \begin{equation*} \begin{split} \frac{G(p)}{n}-\frac{G(p_0)}{n}=RT\ln\left( \frac{p}{p_0} \right) \end{split} \end{equation*}

上式の左辺は、(103)式より化学ポテンシャルの差として表現することができる。

(129)   \begin{equation*} \begin{split} \mu (T, p)-\mu (T, p_0) =RT\ln\left( \frac{p}{p_0} \right) \end{split} \end{equation*}

ここで任意の基準圧力p_0(通常は1 atm)のときの化学ポテンシャルを\mu_oと書いて式を整理すると、

(131)   \begin{equation*} \begin{split} \mu =\mu_0 +RT\ln\left( \frac{p}{p_0} \right) \end{split} \end{equation*}

なる式が得られる。これを微分形式で書けば、

(132)   \begin{equation*} \begin{split} d\mu =RTd\ln{p} \end{split} \end{equation*}

のようになり、これらの式が温度と粒子数が一定の時の理想気体における化学ポテンシャルの導出式である。これらの式は気体分子が分子間力を持たないという前提に成り立っているが、実在気体を考えるときは分子間力と分子自身の大きさを考慮しなければならない。