温度以外の示強性変数の一致

今までしてきた議論は温度以外の示強性変数にも簡単に拡張でき、隣り合う系同士が平衡にあるとき、示量性変数Xに共役な示強性変数Pは双方の系において等しくなることがわかる。例えば、1成分系であれば、エントロピーの自然な変数はU, V, Nであり、それらに共役な示強性変数は、T, –p, μなので、

  • 熱のみを通す壁を設けたとき

T1 = T2

  • 熱を通し、可動な壁を設けたとき

T1 = T2、かつp1 = p2

  • 熱を通し、可動な、物質も通す壁を設けたとき(すなわち何の制約もないとき)

T1 = T2、かつp1 = p2、かつμ1 = μ2

を満たすように平衡状態に達する。つまり、系同士に何の制約もないとき、平衡状態では以下のようになることがすぐに分かる。

  • 温度が釣り合っていないときは、より高い温度を持つ系からもう一方の系に向かって熱が流れ、双方が同じ温度になったときに熱の流れが止まる。これは熱拡散thermal diffusionと呼ばれる。
  • 圧力が釣り合っていないときは、より高い圧力を持つ系の体積が膨張し、もう一方の系の体積が収縮することで圧力が釣り合う。
  • 化学ポテンシャルが釣り合っていないときは、より高い化学ポテンシャルを持つ系からもう一方の系に向かって粒子が流れる。これは分子拡散molecular diffusionと呼ばれる。

すなわち、T, p, μは、それぞれ熱拡散、体積変化、分子拡散を引き起こすポテンシャルのようなものであることが分かる。一般化して言えば、示量性変数Xkに共役な示強性変数Pkは、Xkの流れを司るポテンシャルのようなものと言える。

なお、重力が無視できないときは圧力の分布にその影響が出るとすでに書いたとおり、実際の貯留層における圧力条件はしかるべき補正を施す必要がある。さらに毛細管圧力capillary pressureの影響があるときは、液相と気相で圧力が異なるのでその点も注意されたい。これは貯留岩孔隙の濡れ性wettabilityという、いわば容器の性質を表現するための拘束条件が加わっていることを表しており、熱力学が不完全な学問である訳ではない。