排出過程

濡れ相(例えば水)で満たされた岩石のコアに非濡れ相(空気や油)を押し込むいわゆる排出過程drainage processを、毛細管圧力について考えてみる。

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ここでは岩石は水と相性がよいので、何も圧力をかけない状態では非濡れ相がコアの中に入っていくことはない。したがって、排出過程を開始するには初期の状態である程度の圧力をかける必要がある。最初は毛細管圧力の違いにより、大きい開口半径を持つ孔隙から侵食されてゆく。排出過程が進むにつれて、より小さい孔隙を侵攻しなければならないので、非濡れ相を押すのに必要な圧力はどんどん上昇してゆく。しまいにはいくら圧力をかけても取り出せない濡れ相の流体がコアに残される。これは小さすぎて非濡れ相がどんなに頑張っても入り込めない孔隙があることを示唆している。

さて、この思考実験を実際にラボで試して、横軸に濡れ相(水)の飽和率、縦軸に毛細管圧力をプロットすると次のようになる。

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このプロットは右端のエントリーポイントから始まっている。最初は水だけがコアの中に入っているのでその飽和率は1である。エントリーポイントでの毛細管圧力は>0であるが、これは非濡れ相が侵入するのにある程度の圧力(=閾値圧)が必要だからである。その際に、最も大きな開口幅を持つ孔隙から非濡れ相に侵されていくが、水の飽和率を下げるためには油をどんどん小さい孔隙に押し込んでいかなければならないため、押し込むための圧力は上昇してゆく。圧力をどんなにかけても最終的に取り出せなくなる濡れ相の存在は、毛細管圧力曲線のプロットに漸近線asymptoteが出現することから示唆される。

つまり、この曲線の特異な形状は孔隙径の分布を代表していると言える。曲線が寝ている場所は、同じような径を持つ孔隙がたくさんあるということである。この図を例にとると極端に大きいかまたは小さい孔隙は数が少ないので、それぞれ該当する高飽和率ゾーンと低飽和率ゾーンの傾きは急である。中間くらいのサイズを持つ孔隙は多いので曲線の傾きが緩やかである。また、もし孔隙径が大、中、小の三種類しかなかったら、毛細管圧力曲線の形状は階段状stepwiseになる。

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実際の毛細管圧力曲線がこのようにならず、滑らかかつ傾きが連続的に変化する曲線になるのは、非常に多彩な径を持つ無数の孔隙から多孔質媒体が作られていることの証拠に他ならない。