フュガシティ

暗黙的に単成分を前提に話を進めてきたが、成分iについての理想気体と実在気体の化学ポテンシャルの式は次のとおりである。

(136)   \begin{equation*} \begin{split} d\mu_i = RTd\ln{p_i} \end{split} \end{equation*}

(137)   \begin{equation*} \begin{split} d\mu_i = RTd\ln{f_i} \end{split} \end{equation*}

ここでの、p_iは全圧pに対する成分iの理想分圧であり、次の関係を満たしている。

(138)   \begin{equation*} \begin{split} p_i = x_i p \end{split} \end{equation*}

ただし、x_iは成分iのモル分率である。

この書き方を踏まえると、フュガシティは次のように定義することもできる。

(139)   \begin{equation*} \begin{split} \lim_{p\rightarrow{0}} \left(\frac{f_i}{p_i} \right)=1 \end{split} \end{equation*}

これは、低圧力の極限でフュガシティと理想分圧が等しくなることを示しており、特にf_i / p_iの項を記号\varphiで代表してフュガシティ係数fugacity coefficientと呼ぶ。

(140)   \begin{equation*} \begin{split} \varphi_i =\frac{f_i}{p_i} \end{split} \end{equation*}

分圧の代わりに全圧を使えば、次のように書くこともできる。

(141)   \begin{equation*} \begin{split} \varphi_i =\frac{f_i}{x_i p} \end{split} \end{equation*}

さてここで、フュガシティを用いて相平衡の条件を導出することを試みる。これは後に控える相平衡計算(フラッシュ計算)に繋がる大事な部分である。相\betaと相\gammaがあるときにそれぞれの成分iに関する化学ポテンシャルは、フュガシティを用いて次のように計算できる。

(142)   \begin{equation*} \begin{split} \mu_{i,\beta}=\mu_{i,0}+RT\ln\left( {\frac{f_{i,\beta}}{p_0}} \right) \end{split} \end{equation*}

(143)   \begin{equation*} \begin{split} \mu_{i,\gamma}=\mu_{i,0}+RT\ln\left( {\frac{f_{i,\gamma}}{p_0}} \right) \end{split} \end{equation*}

 

ある系が相平衡状態にあるときは、既述のとおり、

(144)   \begin{equation*} \begin{split} \mu_{i,\beta}=\mu_{i,\gamma} \quad \forall{i, \beta} \quad (i=1,2, \ldots, n_c; \quad \beta \neq \gamma) \end{split} \end{equation*}

が成り立つ必要があるので、相平衡の必要十分条件は

(145)   \begin{equation*} \begin{split} f_{i,\beta}=f_{i,\gamma} \quad \forall{i, \beta} \quad (i=1,2, \ldots, n_c; \quad \beta \neq \gamma) \end{split} \end{equation*}

ということになる。つまり、それぞれの成分ごとに、フュガシティがすべての相で一致すればその系は平衡状態であると言える。この条件をフュガシティ係数で書き直してみると、次のようになる。

(146)   \begin{equation*} \begin{split} \varphi_{i,\beta}x_{i,\beta}p=\varphi_{i,\gamma}x_{i,\gamma}p \end{split} \end{equation*}

ここでのpは系の全圧であり、相に関わらずどこでも等しくなるので結局、

(147)   \begin{equation*} \begin{split} \varphi_{i,\beta}x_{i,\beta}=\varphi_{i,\gamma}x_{i,\gamma} \end{split} \end{equation*}

のようになるが、さらに変形すると次の大変興味深い式が得られる。

(148)   \begin{equation*} \begin{split} \frac {\varphi_{i,\beta}} {\varphi_{i,\gamma}} = \frac {x_{i,\beta}} {x_{i,\gamma}} \end{split} \end{equation*}

この式がなぜ興味深いかと言えば、\betaを気相、\gammaを液相と見なせば気液平衡の平衡定数equilibrium constantを表す式になっているからである。

(149)   \begin{equation*} \begin{split} K_i=\frac{\varphi_i^L}{\varphi_i^V}=\frac{y_i}{x_i} \end{split} \end{equation*}

ただし、Kは平衡定数、xは液相比率、yは気相比率(それぞれ成分iについてのモル分率)、上付き文字のLVはそれぞれ液相、気相を表している。