全微分であるための条件

多変数関数があるとき、どのように微分するかという議論はすでに本文の中で紹介した。例えば二変数からなる関数zであれば、その微分は全微分として次のように与えられるのであった。

(1)   \begin{equation*} dz=\frac{\partial{z}}{\partial{x}}dx+\frac{\partial{z}}{\partial{y}}dy \end{equation*}

さて、

(2)   \begin{equation*} dQ=Adx+Bdy \end{equation*}

という形で与えられる方程式があるとき、この式がQの全微分であるための必要十分条件は

(3)   \begin{equation*} \frac{\partial{A}}{\partial{y}}=\frac{\partial{B}}{\partial{x}} \end{equation*}

である。よく使うのでここでは必要条件の証明を示すことにする。

まず、(2)式がQの全微分であると仮定すると、QABの間に次に示す関係が成り立っていなければならない。

(4)   \begin{equation*} A=\frac{\partial{Q}}{\partial{x}} \end{equation*}

(5)   \begin{equation*} B=\frac{\partial{Q}}{\partial{y}} \end{equation*}

次に、この(4)式をyについて、(5)式をxについてそれぞれ偏微分すると次のようになる。

(6)   \begin{equation*} \frac{\partial{A}}{\partial{y}}=\frac{\partial^2{Q}}{\partial{x}\partial{y}} \end{equation*}

(7)   \begin{equation*} \frac{\partial{B}}{\partial{x}}=\frac{\partial^2{Q}}{\partial{x}\partial{y}} \end{equation*}

これらの式の辺々を引くと、

(8)   \begin{equation*} \frac{\partial{A}}{\partial{y}}=\frac{\partial{B}}{\partial{x}} \end{equation*}

を導くことができる。

この議論は簡単に多変数関数に拡張することができ、

(9)   \begin{equation*} dQ=A_1 dx_1+A_2 dx_2+\cdots +A_n dx_n \end{equation*}

なるn変数の式を考えると、上式がQの全微分であるための必要十分条件は

(10)   \begin{equation*} \frac{\partial{A_i}}{\partial{x_j}}=\frac{\partial{A_j}}{\partial{x_i}} \quad \forall{i, j} \quad(i\neq j) \end{equation*}

となる。