熱力学では量を示している変数と、強さを示している変数を区別して考える。前者を示量性変数extensive variableと言い、後者を示強性変数intensive variableと言う。また、単に示量変数、示強変数と呼んだりもする。これらは後に控える式展開に必要になる概念であるのでここで触れておきたい。
まず示量性変数であるが、これはある平衡状態に達している系の一部を、大きさが半分になるように静かに切り取ったときに半分になるものを指す。例えば体積がその筆頭であり、質量や粒子数もそうである。一方系を半分の大きさに切り取っても、もとの量が保存されるのが示強性変数である。圧力や温度は系を半分に切ったからといって半分になったりしないはずだ。例えば27℃(約300 K)、1気圧の状態で100 m3の空気が含まれた部屋を静かに扉で半分に区切れば、それぞれの体積は50 m3ずつになるが、示強性変数である温度は-123°C(約150 K)になるはずはなく27℃のままであり、圧力も1気圧のままである。もし圧力や温度が示量性変数だったら部屋の扉を閉めただけで、室内の気温は氷点下になるわ、中にいる人は致命的な減圧症になるわで、うかうか戸締まりもできず大変である。
示量性変数と示強性変数の中には、お互いを掛け合わせるとエネルギーの次元を持つものが存在し、ペアとなる相手の変数をそれぞれ共役conjugateと呼んでいる。共役な変数の組み合わせはさほど多くなく、表2によると体積Vと圧力p、粒子数Nと化学ポテンシャルμ、エントロピーSと温度Tがそれぞれ共役である。エネルギーの次元を持つということは、エネルギー保存則の式に登場するということである。後に議論する気体の状態方程式(pV = znRT)の左辺第一項はpVという形をしているが、この事実はとりもなおさず状態方程式がエネルギー保存則を記述したものであることを示唆している。なお、共役の説明で登場した粒子数はあまりなじみのない変数かもしれないが、含まれる粒子の個数を示しており、ある成分iを想定すると、アボガドロ数NAと物質量nの間に以下のような関係が成り立つ。
すなわち、粒子数は物質量(モル数)と物理的に同義である。